治験コーディネーター(CRC)は、治験を実施する際に遵守すべき基準であるGCPや治験の計画書に従って、治験が適切に行われるように各部署を調整(コーディネート)する仕事です。患者様だけでなく、製薬会社や病院で働いているさまざまな職種の方と協力して業務を行います。
この記事では、現役の治験コーディネーター(CRC)の声や現場の裏話、写真やイラストを交えて、治験コーディネーター(CRC)の仕事内容を分かりやすく解説しています。「治験コーディネーター(CRC)って何をする人?」「治験コーディネーター(CRC)の仕事内容が分からない!」という方は、ぜひご覧ください。
治験コーディネーター(CRC)の仕事内容とやりがい
治験の事前準備
新しく始まる治験の内容を把握した上で、病院関係者に対して治験の概要と目的を説明します。
勉強会
製薬会社の担当者(主に企画開発担当・プロジェクトマネージャー・CRA(臨床開発モニター)など)が、新たに実施する治験に参加する予定の治験コーディネーター(CRC)を一同に集めて勉強会を行います。
勉強会では、プロトコール(治験実施計画書)や治験薬概要書などを用いて、治験実施のスケジュールや注意点、獲得症例の目標数、協力病院一覧、治験薬の特性や効果などについて説明が行われます。
国内で既に多くの治験が実施されている場合や、安全性が高いと予想される場合は、勉強会は比較的短い期間で済み、1~3日程度で終わります。それに対して、国内で初めて実施する治験や、最先端技術を用いた薬剤を使用する場合、あるいは安全性のデータが少ない場合などは、勉強会は数週間に及ぶこともあります。
勉強会では、プロトコール(治験実施計画書)や治験薬概要書などに関する疑問点は積極的に質問するようにしましょう。治験コーディネーター(CRC)は、勉強会の終了までに治験の全体像から細部までを深く理解しておき、治験関係者に説明できるようにする必要があります。
また、製薬会社の担当者が治験の全てを把握しているとは限りません。そのため、勉強会でわからなかった部分については、他の人から教えてもらうことも大切です。その時に最も頼りになる人は、経験豊富なプロジェクトリーダーです。
他にもSMA(治験事務局担当者)や同僚から教えてもらってもよいでしょう。より専門的な理解を求める場合は、疾患については治験担当医師や看護師、薬剤については薬剤師、検査については検査技師など、各分野の専門家に相談することもできます。そして、一通りの準備が終わったら、次のステップとしてスタートアップミーティングへ参加します。
《 プロトコール(治験実施計画書)の主な内容 》
- 治験の概要
1)目的
・対象患者、治験薬名、投与量、投与機関、目指す効果など
2)対象
・選択基準(性別、年齢など最低限満たさなければならない条件)
・除外基準(合併症、基礎疾患、アレルギー、妊婦など治験に参加できない条件)
3)被験者への説明と同意に関する記述
4)目標症例数
5)治験実施期間
6)治験薬剤
7)治験方法及び投与方法 - 治験計画の背景(開発の経緯、毒性作用、薬理作用、先行試験の結果など)
- 治験の方法
1)治験の種類
2)治験のスケジュール(投与期間など)
3)被験者の募集・登録方法
4)投与方法 など - 治験の中止、脱落基準
- 被験者の機密保持(被験者は識別コードを使用、実名は症例報告書には記録しない)
- データの解析方法
- 臨床開発モニター(CRA)の仕事内容はこちら
- CRAの仕事内容
- みんなの回答はこちら
- CRCになってからの勉強で大変な部分を教えて下さい
スタートアップミーティング
製薬会社の担当者(主にCRA(臨床開発モニター))は、治験を行う医療機関において、治験責任医師・分担医師・治験コーディネーター(CRC)・SMA(事務局担当者)・看護師・臨床検査技師・薬剤師・放射線技師・事務員など、病院で治験に関わる人たちと一緒に、スタートアップミーティングと呼ばれるミーティングを開催します。このミーティングでは、これから始める治験の目的や内容、手順や注意点を説明し、それぞれの担当業務や役割を確認します。
治験コーディネーター(CRC)はスタートアップミーティングが円滑に進むように、事前にミーティング場所の確保や参加者のスケジュールの調整、配布する資料の準備などを行います。また、SMA(治験事務局担当者)と協力して、CRA(臨床開発モニター)が説明しやすいように司会や進行のサポートをします。
《 スタートアップミーティングの内容 》
- プロトコール(治験実施計画書)の説明
- 治験薬概要書の説明
- 被験者の基準の説明
- 過去の治験実績の紹介
- 各人の業務分担の取り決め
- 事務局担当者(SMA)の仕事内容はこちら
- SMAの仕事内容
各部署への説明
スタートアップミーティングだけでは、治験をどのように進めるべきかを正確に理解できない医療従事者がいる場合があります。そのため、治験コーディネーター(CRC)は治験が行われる部署を個別に訪問し、スタートアップミーティングでは説明できなかった具体的な業務の内容や、分からない点を確認します。
治験を円滑に進めるためには各部署の協力が欠かせません。そのため、治験の説明と平行して、各担当者と良好な信頼関係を築くように努め、治験を円滑に進めるために必要な協力体制を構築しておきます。
その他にもスタートアップミーティングには不参加ですが、少しだけ治験に関わる可能性がある医療従事者のために、ひと目で治験の内容がわかるような資料を作成して、各部署に配布しておきます。治験に関わる全員が協力できるように、治験コーディネーター(CRC)は様々な手段を使って治験の理解促進に努めます。
《 配布する資料の項目 》
- 治験の概要
- 検査項目
- 治験のスケジュール
- 禁止事項など
治験薬・検査キットの管理
製薬会社から治験薬と検査キットが届きます。治験コーディネーター(CRC)はこれらの受け取りから在庫管理や返品といった管理を行います。被験者が来院した際にすぐ検査ができるよう、オーダリングシステムで事前にセットアップを行います。
治験の開始
治験に参加していただける候補者を、様々な手段で募集します。この段階を被験者スクリーニングといいます。
被験者スクリーニング
被験者スクリーニングとは、治験に参加していただける被験者を探す作業のことです。治験コーディネーター(CRC)はスタートアップミーティングで設定された目標症例数を達成するため、様々な手段を用いて被験者集めに奔走します。
大きな病院では、第一相と第二相の治験を兼ねていたり、希少・難治性疾患を対象としたりする治験が増加しており、目標症例数を達成することが難しくなっています。また、治験のグローバル化が進んだことにより、治験のスピードがますます要求されるようになっています。
その結果、治験コーディネーター(CRC)には多様な手段を用いてスピーディに被験者となる患者様を集める能力がますます求められるようになってきています。
被験者スクリーニングは主に一次スクリーニングと二次スクリーニングに分けられます。
一次スクリーニングとは、被験者候補となる可能性のある患者様を探し、その患者様がプロトコール(治験実施計画書)で定められた選択・除外基準に適合するかどうかを判断し、併用禁止薬を服用していないかなどの調査を行うことです。二次スクリーニングとは、インフォームド・コンセントや治験説明会を経て、さらに細かいチェックや健康診断などを行うことです。
選択基準と除外基準
治験の参加条件には選択基準と除外基準があります。選択基準はその基準に該当すること、除外基準はその基準に該当しないことを意味します。
- 選択基準の一例
年齢が20歳以上60歳以下、 総ビリルビンが2.3mg/dl未満、血小板数が60,000/mm3以上 - 除外基準の一例
過去に治験と同じ薬の投与を受けたことがある、4ヶ月以内に他の治験に参加したことがある、妊娠・授乳中である
被験者候補の探し方
- 医師から被験者候補の患者様を紹介してもらう治験責任医師や治験分担医師から被験者候補の患者様を紹介してもらう方法です。ただし、医師が常に積極的に患者様を紹介してくれるとは限りません。なぜなら、医師は非常に忙しいため、被験者候補を探すことを忘れたり、優先順位を下げたりすることがあるからです。
そのため、治験コーディネーター(CRC)は医師がモチベーションを高くして被験者スクリーニングに取り組めるよう、定期的にコミュニケーションをとって情報提供を行ったり、被験者スクリーニングが上手くいかない原因を一緒に探るなどのサポートを行います。
医師とはいえ、治験の全てを覚えておくことは難しいため、治験コーディネーター(CRC)は多忙な医師の状況を理解し、被験者スクリーニングに協力しやすい環境を作るための手助けをする必要があります。 - 病院の電子カルテや医療情報システムを使って被験者候補の患者様を探す治験コーディネーター(CRC)が病院の電子カルテや登録者データなどを使って、被験者候補の患者様を探す方法です。
最近は閲覧用の電子カルテ端末が増えており、効率的に被験者候補の患者様を探すことができるようになっています。しかし、効率的に被験者スクリーニングが行えるようになったとしても、被験者の登録数が思うように増えないことがあります。
その理由は、病院ごとに使用しているシステムが異なっているため、治験コーディネーター(CRC)が検索方法に慣れていないと、被験者候補の患者様を見逃してしまう場合があるからです。
そのようなことを避けるためには、治験コーディネーター(CRC)が病院ごとのシステムの違いを理解したうえで、担当する治験に合った病名や使用薬剤で適切に検索できるよう、高度な検索スキルを身につける必要があります。 - 病院の設備を利用して被験者候補の患者様を集めるポスターやホームページ、情報案内電子掲示板やインターネット掲示板などの病院の設備を活用して、被験者候補となりうる患者様を探す方法です。
病院・クリニックによって利用できる設備は異なります。ある病院では効果が小さい場合でも、別の病院では効果が大きい場合もあります。そのため、治験コーディネーター(CRC)は試行錯誤を繰り返しながら、治験を行っている病院で最も効果的な方法を見つけ出す必要があります。
特に被験者の集まりが悪く目標症例数に達しない可能性がある治験については、治験コーディネーター(CRC)は様々な方法を積極的に治験担当医師や病院側に提案し、協力を求める必要があります。 - 外部広告を利用して被験者候補を集めるインターネットや新聞などの外部広告を利用して、一般の人の中から治験に参加しても良いと思うボランティアを募集します。その応募者の中から被験者候補を選びます。治験に参加しても良いと思う人を治験ボランティアと言い、治験ボランティアが登録されているリストのことをボランティアパネルと言います。
最近は病院以外にも、治験ボランティア募集を専業として行っている会社も増えています。病院内だけで被験者を集めることが難しかったり、多数の被験者を確保する必要があったりする場合は、このような会社に依頼することにより、迅速に多数の被験者が集まります。
外部広告を利用する場合、まず治験コーディネーター(CRC)は製薬会社のCRA(臨床開発モニター)や治験担当医師などと原稿内容やスケジュールなどの打ち合わせをしたうえで、治験ボランティア募集会社などに申し込んで広告の出稿手続きをします。
広告を出稿した後は治験に協力してもよいという方から問い合わせがあります。治験コーディネーター(CRC)は治験ボランティアを希望する人からの問い合わせに対応し、被験者候補を見つけます。
被験者募集ポスターの例
代表的な治験ボランティア募集サイト
被験者候補の患者様が見つかると、治験コーディネーター(CRC)はすぐに該当者に連絡し、プロトコール(治験実施計画書)の選択基準と除外基準に適合するかどうか、また併用禁止薬を服用していないかどうかなどの調査を行います。調査の結果、被験者が基準に適合する場合は、次のステップであるインフォームド・コンセントへと進みます。
被験者との面談・フォロー
被験者候補が治験に参加できる条件を満たしているかを確認し、治験に関する情報を十分に理解して同意書に署名できるようにサポートします。
インフォームド・コンセント(IC)のサポート
インフォームド・コンセントとは、治験へ参加することを希望する方が、治験の説明を受けた後に、治験へ参加することに同意し、書面によって意思表示することです。
具体的には、医師が治験へ参加したいと思っている方に対して、治験の目的や方法・スケジュール・薬の候補の特徴などが書かれた説明文書を渡したうえで、その内容を詳しく説明します。所要時間はおよそ30分~1時間程度です。治験参加希望者が、治験の内容を理解したうえで参加の意思を表示し、同意文書に署名すればインフォームド・コンセントは完了します。
治験コーディネーター(CRC)はインフォームド・コンセントで使用する説明文書や同意文書の作成を手伝ったり、治験の内容をより分かりやすく説明した参考資料を作成したりします。また、治験責任医師や治験分担医師が行うインフォームド・コンセントに一緒に参加し、医師の説明の補助をしたり、医師から聞かれたりする治験の専門的な質問に対して回答したりします。
このインフォームド・コンセントは治験コーディネーター(CRC)にとって、被験者スクリーニングと並んでメイン業務の一つで、治験コーディネーター(CRC)の仕事と言えばこのインフォームド・コンセントを真っ先に思い浮かべる方も多いでしょう。
インフォームド・コンセントは主に治験の仕組みや疾患の知識が必要な被験者スクリーニングとは異なり、治験参加希望者の気持ちや理解度に寄り添うカウンセリング能力と、治験の内容を分かりやすく伝えるコミュニケーション能力が求められます。
このインフォームド・コンセントの説明内容によって、治験へ参加する・しないを決める方も多いため、目標数の被験者を集めて新薬開発に貢献することが求められる治験コーディネーター(CRC)にとって、最も知識や能力が問われる場面です。
インフォームド・コンセントで医師や治験コーディネーター(CRC)は治験薬に期待できる効果などのメリットだけでなく、副作用などのリスクも併せて説明する必要があります。治験に興味を抱いている方は治験薬の効果に期待を寄せている反面、副作用に対して不安や恐怖心を抱くことが多いです。
また、インフォームド・コンセントを受ける方の中には、治験薬のなかに偽薬であるプラセボが混ざっていることや、それまで投与していた薬の投与を中止する期間が必要なことを知ってショックを受けて参加をためらう方もいます。
治験コーディネーター(CRC)はそのような治験に対する不安や恐れなどの気持ちを、インフォームド・コンセントを受ける方々の気持ちに共感しながら、共に治験へ参加する意義を考えていくことで、治験参加希望者が自分の意思で治験への参加・不参加を決められるようにサポートします。
治験参加希望者には様々なタイプがいます。例えば、医師に全幅の信頼を置いており、医師から説明を受けた段階で迷わずに参加を決める方や、治験について何も知らずに長時間にわたって説明を求める方、事前に自分で色々と調べており、分からないことだけ簡潔に説明してもらう方、治験の副作用などを心配して何日も迷う方などがいます。
治験コーディネーター(CRC)はどのような方が参加を希望しても、常に良き相談相手となれるように努めることが求められます。
治験参加希望者が、治験に参加することに同意し、書面に署名すると、インフォームド・コンセントはひとまず完了します。しかし、その後も治験の進行状況や新たな情報が入る場合は、インフォームド・コンセントの更新を行います。
GCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)で定められているインフォームド・コンセントの主な項目
- インフォームド・コンセントは被験者が署名した書面によって証明される
- 治験を行うものは、事前に治験の目的や内容について説明を行う必要がある
- 治験のメリットだけでなく、予想しうる最悪の事態についても説明を行う必要がある
- 治験への参加は参加者の自由意思によって決められる必要がある
- 治験の参加者は治験をいつでも自由に辞めることができるなど
《 インフォームド・コンセントで被験者に説明する必要がある主な項目 》
- 治験の目的
- 治験責任医師の氏名や連絡先
- 治験の方法
- 予測される治験薬の効果および不利益
- 秘密保全
- 補償に関することなど
《 インフォームド・コンセントで守るべき事項 》
- 分かりやすい言葉での説明
- 被験者の自由な意思
- 書面での同意と文書の保管
- みんなの回答はこちら
- 上手に同意説明をするには? プロトコールの大切なところは?
被験者のフォロー
治験コーディネーター(CRC)は、治験に参加することに同意した方が、スムーズに治験を完了できるように様々なフォローを行います。
主なフォローとしては、健康診断のサポート、診察スケジュールの管理、診察・検査のサポート、治験薬の服薬管理、被験者日誌の作成、有害事象が発生していないかの確認などがあります。
被験者に対する治験コーディネーター(CRC)のフォロー内容
- 健康診断のサポートインフォームド・コンセントを完了した方は、治験に参加できるかどうかを確認するために健康診断を受けていただきます。
健康診断の内容は身長・体重・血液検査などの基本的なものに加えて、試験や個人に応じたものがあります。治験コーディネーター(CRC)は健康診断の内容や費用の負担について説明し、被験者が健康診断をスムーズに終えられるようサポートします。
また、薬の影響を排除するために何も投与しない期間(ウォッシュアウト期間)が必要な場合は、治験コーディネーター(CRC)がスケジュールを管理し、被験者に指示します。 - 本登録(組み入れ)治験コーディネーター(CRC)は、被験者のデータを専用のデータベースに登録します。登録が完了すると、被験者に投与する薬がランダムに割り当てられます。治験コーディネーター(CRC)は、割り当てられた治験薬の番号や数量を確認した上で、医師や薬剤師に渡します。
- 診察スケジュールの管理被験者は治験に参加すると、定期的に病院で診察を受けます。診察の頻度は治験の進行状況によって異なります。治験開始直後は毎日〜週に2回など多い場合もありますし、治験終了間際は1ヶ月に1回など少ない場合もあります。
治験コーディネーター(CRC)は、被験者が治験実施計画書(プロトコール)に従ってスケジュール通りに診察を受けるように、被験者の診察スケジュールを管理します。また、診察日が変更された場合や予期せぬ事態が発生した場合は、速やかに被験者や医師と連絡を取り、スケジュールの調整や問題の解決を行います。
具体的には、被験者に来院日や診察日が記入されたスケジュール表を渡し、来院が必要な場合は、診察の前日に電話やメールで連絡します。これにより、被験者が診察を忘れてしまうことを防止します。
治験コーディネーター(CRC)は複数の被験者を担当するため、カレンダーアプリなどのスケジュール管理システムを利用して、被験者ごとの診察日や連絡方法などの情報を一元的かつ効率的に管理します。 - 診察・検査(検温→問診→アンケート記入→採血→検査→診察)のサポート治験コーディネーター(CRC)は被験者の診察に同席し、診察がプロトコール(治験実施計画書)を順守して行われるよう医師をサポートします。医師や被験者から質問があった場合は回答します。被験者は診察とともに様々な検査を受けます。
検査の内容は治験の種類やスケジュールによって異なりますが、治験コーディネーター(CRC)は被験者が受けるべき検査を間違えないように、検査項目を確認したり、検査場所を案内したりします。 - 治験薬の服薬管理治験コーディネーター(CRC)は、被験者が治験薬を正しく服用できるように、薬剤師と協力して様々なサポートを行います。また、被験者が併用禁止薬を誤って服用してしまわないように、治験薬以外の併用薬の使用状況も正確に把握します。
具体的には、被験者に服薬日誌を配布し、治験コーディネーター(CRC)が服薬日誌をチェックして記入漏れがあった場合は被験者に正しく記入するように指導します。
服薬方法が複雑で、服薬日誌だけでは正しく服薬を管理できない場合は、分かりやすい資料を別に作成したり、服薬ボックスやお薬カレンダーを使用したりして、被験者が服薬の方法や期間・回数を守れるようにサポートします。
また、治験コーディネーター(CRC)は併用禁止薬・制限薬を服薬日誌の目立つ場所に記載したり、治験以外の服薬状況を細かくヒアリングしたりすることで、被験者の併用薬の管理を行います。
余った治験薬や使用済みの容器は、治験コーディネーター(CRC)が規定に従って回収し、被験者が計画通りに服用している証拠として保管しておきます。 - 被験者日誌の作成治験コーディネーター(CRC)は、被験者の状態をより詳しく把握するために、被験者に服薬日誌とともに被験者日誌を配布し、日常の生活状況や気になることなどを記入してもらいます。
治験コーディネーター(CRC)は、服薬日誌と被験者日誌を合わせてチェックすることで、被験者の状態を詳細に把握し、治験がプロトコール(治験実施計画書)を順守して進行しているかを確認します。また、被験者日誌の内容は、被験者に発生する可能性のある有害事象を早期に発見するための資料としても活用します。
服薬日誌と被験者日誌の作成はGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)で規定されており、後述するCRF(症例報告書)作成時の資料として使用します。最近ではスマートフォンなどからも被験者日誌を作成できるようになっています。 - 有害事象の発見治験コーディネーター(CRC)は、被験者の診察結果や検査値の変動、被験者日誌、被験者との会話などから、被験者に有害事象が発生していないかを確認します。
もし、有害事象が重篤である場合は、速やかに報告書を作成し、病院や製薬会社に提出します。また、被験者へも重篤な有害事象の内容と対処法を説明し、必要に応じて治療やフォローをします。
被験者を保護する観点から、重篤な有害事象の発生を見逃すことは許されません。そのため、治験コーディネーター(CRC)は、被験者の状況を詳しく観察するだけでなく、治験薬の安全性情報を正しく理解することによって、重篤な有害事象だけでなく、軽度な有害事象の早期発見にも貢献することが求められます。
治験コーディネーター(CRC)は、同じ被験者を半年以上にわたってフォローし続けることがあります。その間、治験コーディネーター(CRC)は、被験者の予定や希望を継続して調整する必要があります。
また、原則として、一人の被験者に対しては一人の治験コーディネーター(CRC)が責任を持ってフォローします。そのため、治験コーディネーター(CRC)には、被験者と長期的な信頼関係を築くための誠実さやコミュニケーション力が求められます。
被験者とのお別れ
治験が終了すると、被験者ともお別れすることになります。寂しい気持ちになることでしょう。
新たな治験方法としてDCT(分散型臨床試験)が注目されています。
DCTとは、医療機関で行われていた臨床試験を自宅などに分散化させることで、患者様が定期的に来院する必要なく参加できる仕組みです。DCT(Decentralized Clinical Trial/分散型臨床試験)あるいはバーチャル臨床試験(VCT、Virtual Clinical Trial)と呼ばれます。DCT(分散型臨床試験)では、以下のような新しいデジタル技術が活用されています。
- eConsent(電子的同意取得)デジタルデバイスやネットワークを使って、治験の説明や同意の取得を行います。例えば、動画で治験の説明をしたり、タブレットで電子サインで同意を取得したりします。患者様は病院に行く必要がなく、自宅で治験に参加する意思表示ができます。
- eCOA(ePROや電子患者日記などを含む)タブレットやスマートフォンなどで、患者様の状態や状況などの臨床試験情報をリアルタイムで収集し評価や管理を行います。
- eリクルート施設ごとではなく全国の患者様を対象にして、被験者候補の選定を行います。
- オンライン診療/訪問診療/訪問看護/訪問治験被験者様が来院しなくても治験ができるようにします。
- ウェアラブルデバイス歩数や活動量、手足の震えや足取りなどをウェアラブルデバイスで測定します。
- 治験薬/試験資材の被験者宛配送治験薬をメーカーから直接被験者に配送できるようにします。
報告書の作成と治験の終了
各被験者に関する治験データをもとに、症例報告書を作成します。また、モニタリングと有害事象への対応を行います。予定された症例数が集まったら治験は終了します。
症例報告書(CRF)の作成
症例報告書とは、治験で得られた被験者の検査データや副作用などの情報をまとめた報告書です。CRF(Case Report Formの略)とも呼ばれます。プロトコール(治験実施計画書)に基づいて、治験依頼者である製薬会社に提出することが義務付けられています。
症例報告書(CRF)は昔は手書きで作成されていましたが、現在はオンライン化が進んでいます。EDC(Electronic Data Capture Systemの略)やCTMS(治験管理システム、Clinical Trial Management Systemの略)というシステムを使ってパソコンで作成することが一般的です。
治験コーディネーター(CRC)の業務は、スタートアップミーティングで決められた被験者数分の症例報告書(CRF)を作成することです。具体的には、治験コーディネーター(CRC)は、治験責任医師から指示を受けて、被験者のカルテや投薬記録、検査結果や観察所見、ワークシートなどから必要な情報を抽出して症例報告書(CRF)に入力します。
オンラインで作成された電子化された症例報告書はeCRFと呼ばれます。また、国際共同治験の場合は英語で症例報告書(CRF)を作成する必要があります。
主要なEDC、CTMSの一覧 | |
会社名 | 製品名 |
オラクル | Oracle Health Sciences InForm GTM |
Medidata Solutions | Medidata Rave |
EPデジタルシェア(EPSグループ) | E-DMS Online、TOMA-s(EPLink) |
NTTデータ | DATATRAK ONE |
《 症例報告書(CRF)に記載される主な内容 》
- 患者の基本属性
- 病歴
- 家族の病歴
- 薬物治療歴
- 治験全過程における各種検査データ
- 副作用
- 担当医師の所見
- 中止・脱落
- 総合評価など
《 症例報告書(CRF)の書き方のポイント 》
- 治験依頼者や治験実施責任者が作成した症例報告書の手引きや症例報告書の修正・変更に関する手引きを順守する
- 専用コードを利用して被験者の個人情報を守る
- カルテや投薬記録・検査結果・所見など(原資料)を正確に転記する
- 原資料と症例報告書(CRF)が一致しない場合は、理由を説明する文書を添付する
各関係者との調整
治験コーディネーター(CRC)は、治験が円滑に進むように、各担当者と必要に応じて打ち合わせを行い、業務の調整をします。
治験コーディネーター(CRC)が関わる方は主に、病院の治験担当者である治験責任医師や治験分担医師、病院の医療従事者である薬剤師や看護師、病院以外の治験関係者であるSMA(治験事務局担当者)やCRA(臨床開発モニター)などです。
病院の治験担当者や医療従事者に対しては、治験の専門家として、治験に関する専門的な質問に答えたり、細かな部分を指摘したり、業務の遂行を支援したりします。また、病院以外の治験関係者に対しては、治験コーディネーター(CRC)自身が分からないことを質問したり、困っていることを相談したり、治験の進め方の指示を受けたりします。
治験コーディネーター(CRC)は名前の通り、各関係者とのコーディネートをする専門家です。様々な関係者と情報交換をし、治験が円滑に進むための潤滑油としての役割が求められます。
そのため、治験コーディネーター(CRC)には、情報を的確に伝達するコミュニケーションスキルや相手の状況や気持ちを理解して業務をスムーズに進める調整力だけでなく、各担当者から不満や苦情を言われても落ち込まないストレス耐性も必要です。
各関係者と打ち合わせが必要な内容
- 病院長・・・・・・・治験を始めるときや、重要な情報を報告
- 治験責任医師/PI・・・治験の全体像
- 治験分担医師/SI・・・治験の詳細(カルテ作成/治験薬の投与/有害事象の対応など)
- 薬剤師/治験薬管理者・服薬のスケジュールや方法
- 臨床検査技師・・・・検査項目や検査スケジュール
- 放射線技師・・・・・検査項目やフィルムの扱い
- 看護師・・・・・・・被験者の対応方法やワークシートの書き方
- 受付・・・・・・・・来院時の段取り
- 医事課・・・・・・・費用
- CRCリーダー・・・・治験の詳細な内容
- CRA・・・・・・・・プロトコールの詳細やモニタリング
- SMA・・・・・・・・書類の管理方法
- 品質管理担当者・・・症例報告書への記載方法
治験責任医師は治験に積極的な方が多く、仕事がしやすいです。しかし、治験分担医師には「上から指示されたから仕方なく治験を手伝っているだけ」という方もいます。全ての医師が治験に積極的な気持ちを持つよう、CRCは治験の規則を丁寧に教え、きめ細かくサポートする必要があります。
臨床検査技師や薬剤師は学生時代に治験を学んでいたため、治験に協力的な方が多い印象です。ただし、検査部や薬剤部では作業手順が細かく決まっているため、CRCはその手順を理解した上で、治験への協力をお願いする必要があります。
モニタリング・GCP実地調査への対応
モニタリングとは、治験依頼者が治験の進行状況を調査し、治験がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)やプロトコール(治験実施計画書)などを遵守して適正に行われることを保証する活動のことです。
治験コーディネーター(CRC)は、治験依頼者から指名されたCRA(臨床開発モニター)がモニタリングを行うために来院した際に、様々なサポートを行います。
治験コーディネーター(CRC)は、モニタリングが行われる前に、同意説明文書などの治験関連書類と、カルテや投薬記録、検査結果などの原資料をCRA(臨床開発モニター)が確認しやすいように整理して準備しておきます。また、原資料から症例報告書(CRF)への転記が正確かつ完全に行われているか、事前に確認しておきます。
モニタリング中は、最初に治験コーディネーター(CRC)がCRA(臨床開発モニター)に現在の治験の進捗状況を詳しく伝えます。その後、CRA(臨床開発モニター)は半日ほどかけて、原資料と症例報告書(CRF)の一致性を確認(SDVと言います)したり、有害事象の有無を判断したり、関係者からヒアリングをしたりするなどのモニタリングを行います。
治験コーディネーター(CRC)はCRA(臨床開発モニター)からの質疑応答に対応したり、関係者への案内や連絡を行ったり、入力内容の修正を行ったりするなど、モニタリングが正確かつ迅速に進むよう様々なサポートを行います。
《 モニタリングの主な項目 》
- 原資料、同意文書、説明文書が被験者ごとに整理されていること
- 被験者が選択基準に合致し、かつ除外基準に該当しないこと
- 併用禁止薬が使用されていないこと
- 検査データが基準を満たしていること
- 有害事象や逸脱理由が記録されていること
治験が終了した一部の医療機関では、厚生労働省から委託を受けた医薬品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)の調査官が来院し、治験がGCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)に準拠して正確に行われていたかどうかを調査します。これをGCP実地調査と言います。
GCP実地調査では1日にわたり、2~3人の調査官がカルテや検査結果などの原資料と症例報告書(CRF)を詳細に照合し、治験薬の管理場所や治験事務局の状況を視察します。
治験コーディネーター(CRC)は、SMA(治験事務局担当者)と協力してGCP実地調査に対応します。具体的には、書類の準備や閲覧のサポート、医師への回答の補助などを行います。
有害事象への対応
有害事象とは、治験中に発生した薬との因果関係に関係なく好ましくない作用のことで、程度の軽いものから、生命を脅かしたり死亡に至る重篤なもの(serious adverse eventを略してSAEと言います)までいくつかのグレードがあります。
治験コーディネーター(CRC)は有害事象の発見を支援し、有害事象報告書や症例報告書(CRF)の作成を手伝います。
有害事象をスムーズに処理するためには、治験コーディネーター(CRC)には強い使命感と、疾患に関する深い知識の両方が備わっていることが必要です。有害事象の発見が遅れると、被験者の生命を危険にさらすことや、最悪の場合は死亡に至ることもあるため、治験コーディネーター(CRC)には、重い責任に耐えられるだけの治験に対する強い使命感が求められます。
また、治験の種類によっては、有害事象が治験薬によるものか疾患によるものか見極めが難しい場合や、発生が予想される有害事象の種類や頻度を予測することが難しい場合があります。そのため、治験コーディネーター(CRC)には発生が予想される有害事象を理解し覚えておくだけではなく、疾患が引き起こす症状や発生メカニズムなどの深い知識が求められます。
予期せぬ有害事象が発生する可能性が高い治験や、有害事象を見極めるために疾患に関する深い知識が必要な治験では、看護師や薬剤師出身で豊富な疾患の知識を持っていたり、経験が豊富なベテランであったりする治験コーディネーター(CRC)が担当することが多くなります。
治験コーディネーター(CRC)は医師と協力して、診察内容や検査結果から被験者に有害事象が発生していないか常に確認します。有害事象が発生していることが確認できた場合には、有害事象の種類や重症度を見極め、必要な処置を行います。その後、治験コーディネーター(CRC)は有害事象名・重症度・治療内容・治験薬との因果関係など、有害事象に関する内容全てを症例報告書(CRF)に記載します。
もし重篤な有害事象(SAE)が発生していることが確認できた場合には、治験コーディネーター(CRC)はすぐに製薬会社と病院長へ緊急報告を行い、速やかに緊急報告書を作成して提出します。治験が継続されるかどうかはIRB(治験審査委員会)での審査などを経て判断されます。
重篤な有害事象
- 死亡に至るもの
- 生命を脅かすもの
- 治療のために入院、または入院・加療期間の延長が必要なもの
- 永続的、または重大な障害・機能不全に陥るもの
- 先天異常を引き起こすもの
治験終了報告書の作成
GCP(治験を実施する際に遵守すべき基準)によると、治験が終了(中止や中断を含む)した場合、治験責任医師はその結果を速やかに実施医療機関の長に報告しなければなりません。
治験コーディネーター(CRC)は、症例報告書(CRF)が予定された契約数に達し、治験に参加している被験者の最終観察、または追跡調査などが全て終了した時点で、治験終了報告書の作成を開始します。治験コーディネーター(CRC)は治験の実施状況に詳しいため、正確な治験終了報告書を作成できます。
その後、製薬会社などの治験依頼者や治験責任医師が治験終了報告書の内容を確認し、実施医療機関の長に提出します。
治験の終了
以上で、治験コーディネーター(CRC)の仕事も一区切りとなります。お疲れ様でした。
追加症例を多く獲得できるかは、CRCの優秀さの一つの指標となります。
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