治験コーディネーター(CRC)は、治験を実施する際に遵守すべき基準であるGCPや治験の計画書に従って、治験が適切に行われるように各部署を調整(コーディネート)する仕事です。患者様だけでなく、製薬会社や病院で働いているさまざまな職種の方と協力して業務を行います。
この記事では、現役の治験コーディネーター(CRC)の声や現場の裏話、写真やイラストを交えて、治験コーディネーター(CRC)の仕事内容を分かりやすく解説しています。「治験コーディネーター(CRC)って何をする人?」「治験コーディネーター(CRC)の仕事内容が分からない!」という方は、ぜひご覧ください。
治験コーディネーター(CRC)の仕事内容とやりがい
オンコロジー(がん)領域の仕事内容
治験の需要が最も高い領域。オンコロジー(がん)領域に携わる治験コーディネーター(CRC)には、高い専門性と強い精神力が求められる。
オンコロジー(がん)領域の治験の特徴
オンコロジー(がん)領域の治験には、他の領域とは異なる多くの特徴があります。
- 痛みや呼吸障害など苦痛を伴う疾患の患者様が対象である。
- 死の不安に直面しており、心理的に大きなショックを抱えている患者様が多い。
- 治験中に患者様が終末期を迎える場合が多い。
- どのような副作用が出るか分からない第一相試験から患者様が対象となる。(他の領域の治験では、まずは安全性を確認する必要があるため、第一相試験は主に健康な男性を対象としている)
- 開始規準や減量規準、休薬規準や中止規準などが定められており規定が複雑。
- 有害事象の発生件数が多く、重篤度も高い。さらに原因の見極めが難しい。
プラセボ薬の投与による良心の呵責が生まれにくい
治療できない生死にかかわる疾患では、プラセボ薬を使用した比較試験は倫理面の問題から行うことができません。そのため、高血圧や糖尿病などの治験とは異なり、オンコロジー(がん)領域の治験ではプラセボ薬を使用する機会は少なくなっています。
つまり、オンコロジー(がん)領域の治験では、治験コーディネーター(CRC)からよく聞く悩みの一つである「被験者にプラセボ薬を投与するときの良心の呵責」が生まれにくいということです。
オンコロジー(がん)領域の治験を担当するために必要なスキル
オンコロジー(がん)領域で治験コーディネーター(CRC)として活躍するためには、高度な知識・豊富な経験・柔軟な調整能力が必要です。
- 患者様や家族への精神的なサポートスキルや、終末期の患者様とのコミュニケーションスキルが必要である。
- インフォームド・コンセントの際には、高いカウンセリングスキルが求められる。
- 複雑なプロトコールを完全に理解する必要がある。
- 有害事象の発生時には、迅速かつ適切な対応が求められる。
オンコロジー(がん)領域の治験コーディネーター(CRC)は、看護師出身者が多い
オンコロジー(がん)領域の治験を担当するには、他の治験とは異なるスキルが必要です。そのため、看護師出身者の割合が高いです。臨床検査技師やその他の資格所持者もいますが、少ないです。
困難も多いがやりがいも高い
オンコロジー(がん)領域の治験は、他の領域の治験と比べて多くの困難に直面します。しかし、より良いがん治療法の開発に貢献したり、がん医療の向上に寄与したりすることで、高いやりがいを感じることもできます。
治験コーディネーター(CRC)としてスキルアップしたい場合は、ぜひ挑戦してみる価値のある領域です。
- オンコロジー(がん)領域の経験がしやすい主な会社
治験を行う際には、安全性を確保することが最優先ですが、がんの治験では特に難しい課題となります。そのため、がんの治験に携わるCRCには、他領域の治験よりも高度な専門性と責任感が求められます。
CNS(中枢神経系)領域の仕事内容
看護師以外の治験コーディネーター(CRC)も活躍できる領域。オンコロジー(がん)に次いで、需要が高い領域の一つ。
高齢化が急速に進んでいる中で、アルツハイマー病や認知症、統合失調症やうつ病などのCNS(中枢神経系)領域に関する治験の需要が高まっています。CNS(中枢神経系)領域の治験は、他の治験と比べて特有の困難さがあります。
治験参加の同意を得ることが困難な場合がある
治験に参加するには、被験者が情報を理解し、自由意志に基づいて同意する必要があります。しかし、精神疾患の場合、被験者の判断能力が低下していることがあります。そのような場合は、被験者に代わって同意できる代理人にインフォームド・コンセントを求め、治験参加の同意を得る必要があります。
データの評価や信頼性に課題がある
CNS(中枢神経系)領域の治験では、プラセボ反応率が高いため、検査値などの客観的なデータだけでは効果判定が難しいという特徴があります。そのため、データの信頼性を高めるには、主観的な心理評価を併用することが一般的です。しかし、心理評価は被験者や評価者にとって時間や負担がかかるという課題があります。
臨床心理士との連携が必要である
CNS(中枢神経系)領域の治験では、CRC(治験コーディネーター)は通常業務に加えて、臨床心理士と連携する必要があります。
CRC(治験コーディネーター)は医師、製薬会社、被験者に加えて臨床心理士ともコミュニケーションをとり、4者間の調整を行います。そのため、治験をスムーズに進めるためには高度なスケジュール管理能力が求められます。
看護師だけでなく、他の医療資格職も活躍できる
CNS(中枢神経系)領域の治験では、患者様の生命に直接関わる症状が少ないため、看護師だけでなく、臨床検査技師や管理栄養士などの他の医療資格職も活躍できます。
- CNS領域を経験しやすい主な会社
治験コーディネーター(CRC)は、客観的に治験薬の効果を判定できるように、環境をしっかり整えていく必要があります。
第一相(癌領域を除く)の仕事内容
医療資格や医療従事者としての経験がなくても活躍できるが、キャリアとして評価されにくい。
第一相(癌領域を除く)の試験は、主に治験を専門に行っているクリニックで実施されます。健康な男性を対象とした試験が多いため、治験コーディネーター(CRC)としてのキャリア形成には不利な面があるとされています。
キャリアとして評価されにくい
第一相(がん領域を除く)の経験は、第二~三相の経験に比べてキャリアとして評価されにくいことがあります。その理由は、第一相の試験では対象者が患者ではなく健康な男性であることが多いため、治験コーディネーター(CRC)は患者やその家族と接する機会が少なく、疾患に関する知識やコミュニケーションスキルが身につきにくいからです。
また、試験の目的が安全性の確認に限られているため、必要とされる薬剤や検査値の理解度も限定的になりがちです。さらに、被験者は治験に参加する意思を最初から持っているボランティアの方が多いため、治験への参加を迷っている方に対して同意を得るためのインフォームド・コンセントスキルも磨きにくいです。
その結果、他の病院やSMOへ転職しようとした時に、第二~三相を経験している治験コーディネーター(CRC)の応募者が他にいた場合、選考で不利になる可能性が高くなります。
土日祝日に出勤する必要があることが多い
第一相の試験に参加する方の中には、平日は仕事をしていて、治験を受けることができるのは土日祝日だけという方もいます。そのような場合、治験コーディネーター(CRC)は土日祝日に出勤する必要があることが多いです。
給与が低い可能性がある
第一相の治験費用は、第二~三相に比べて低いことが多いため、製薬会社が病院やSMOに支払う治験費用も低くなることが多いです。そのため、第一相の治験を担当する治験コーディネーター(CRC)の給与も低くなる可能性があります。
医療資格や医療従事者としての経験がなくても活躍できる
第一相の被験者は、過去に治験に参加したことがある方や、治験に参加する意思がはっきりしている方が多いです。そのため、治験コーディネーター(CRC)が被験者と接する時間は短くて済みます。その結果、医療資格や医療従事者としての経験がなくても、治験コーディネーター(CRC)として活躍できます。
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- 一相よりも二相や三相の治験の経験があるほうがスキルがあるとして扱われるのでしょうか。
また、プラセボを服用する必要がないことや、ウォッシュアウト期間に問題が起こる可能性が低いことから、治験コーディネーター(CRC)の心理的負担は全体的に軽減されます。
ワクチン試験の仕事内容
第一相試験やがん、生活習慣病などの一般的な治験とは異なる特徴を持つ領域。キャリアとして評価されにくい。
ワクチンは薬と異なり、人の免疫を利用してウイルスを排除するために使用されます。ワクチンを開発する際にも治験が行われますが、第一相試験と同様に、治験コーディネーター(CRC)としてのキャリア形成には不利な面があるとされています。
キャリアとして評価されにくい
ワクチン試験の経験は、第一相(がん領域を除く)と同様に、第二~三相の経験に比べてキャリアとして評価されにくいことがあります。その理由は、ワクチンの試験では対象者が患者ではなく健康な人であることが多いため、治験コーディネーター(CRC)は患者やその家族と接する機会が少なく、疾患に関する知識やコミュニケーションスキルが身につきにくいからです。
また、被験者は治験に参加する意思を最初から持っているボランティアの方が多いため、治験への参加を迷っている方に対して同意を得るためのインフォームド・コンセントスキルも磨きにくいです。
さらに、効果の判定方法が一般的な治験と異なり、「抗体ができるか」「抗体が長続きするか」の二つが主な指標であるため、ワクチン試験の経験を他の治験に応用できる機会が限られてしまいます。
土日祝日に出勤する必要があることが多い
第一相(がん領域を除く)と同様に、ワクチンの試験に参加する方の中には、平日は仕事をしていて、治験を受けることができるのは土日祝日だけという方もいます。そのような場合、治験コーディネーター(CRC)は土日祝日に出勤する必要があることが多いです。
ワクチン試験は、治験コーディネーター(CRC)初級者から中級者に適している
ワクチン試験の第二相から第三相では、薬剤の安全性だけでなく、第一相では行わない有効性や適正な使用法などを確認する作業にも携わることができます。また、プラセボ(偽薬)の使用も経験できます。
そのため、第二相から第三相のワクチン試験の経験は、第一相(がん領域を除く)の経験よりも高く評価されることが多いです。
再生医療領域の仕事内容
高度な専門性と大きな将来性を持つが、現時点での需要はそれほど高くない。
再生医療とは、病気やケガで損なわれた組織や臓器を、体の再生能力を利用して修復する医療です。主に幹細胞を用いて、損傷した部位を修復・再生します。従来の治療法では難しかった病気の治療に期待が集まっています。
再生医療領域に携わる治験コーディネーター(CRC)には高い専門性が求められ、将来性も大きい分野ですが、現時点での需要はそれほど高くありません。
異なるルール 医薬品の治験との違い 高い専門性 低い需要 大きな将来性 整形外科領域や手術室の看護師、病理検査の臨床検査技師が活躍しやすい
医薬品の治験とは異なるルール
再生医療の治験は、従来の医薬品とは異なり、生きた細胞(細胞治療製品など)や遺伝子(遺伝子治療製品など)を使用します。
そのため、通常の医薬品の治験に適用される「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」ではなく、「再生医療等製品の臨床試験の実施の基準に関する省令(再生医療等製品GCP)」という異なる規制に従って実施されます。
- 医療機器の治験について知りたい方はこちら
医薬品の治験との違い
再生医療では、化学的に合成された薬物ではなく、生きた細胞や遺伝子を使用します。そのため、再生医療の治験は製品の安定性や品質管理、投与方法が複雑になります。
- 細胞治療:損傷した組織や器官の再生を目指し、機能の回復を図ります。
- 遺伝子治療:遺伝子レベルでの疾患の修復や予防を目指します。
安全性情報は副作用に加えて、製品自体の不具合に関する情報も含めて収集する必要があります。また、有効性の評価には、症状の改善や生存率の向上に加えて、組織の再生度合いや長期的な機能回復といった効果も考慮する必要があります。
高い専門性
再生医療の治験では、再生医療等製品GCPに加え、医学、生物学、細胞培養、遺伝学、遺伝子操作などの再生医療特有の知識やスキルが求められます。そのため、治験コーディネーター(CRC)にも高い専門性が求められます。
低い需要
治験全体に占める再生医療の治験の割合は10%未満と少ないです。そのため、再生医療分野の経験があっても、治験コーディネーター(CRC)としての需要は、現時点では高いとは言えません。
大きな将来性
再生医療等製品は、従来の医療では治療が困難だった疾患に対して革新的な治療法を提供する可能性を秘めています。特に細胞・遺伝子治療市場は2030年までに年率30%以上の成長率が見込まれており、治験コーディネーター(CRC)の需要も増加すると予想されるため、高い将来性があると言えます。
整形外科領域の看護師、手術室の看護師、病理検査の経験がある臨床検査技師が活躍しやすい
領域別のよくある質問とみんなの回答
- Q
- プロトコール数、試験数、症例数の違いを教えて
- A
-
こんにちは。CRC3年目です。
治験ってほかの業界ではあまり聞かない言葉があって覚えるのが大変そうに感じますよね。転職前に覚えておくことは非常に重宝しますが、やっていくうちに自然と覚えていくことも多いので安心してくださいね。
■プロトコールとは?
治験実施計画書のことです。PRTと略することもあります。臨床試験を受託することが決まったら、製薬会社(依頼者)からまず提供される電子データまたは冊子です。
プロトコ-ルには、開発の経緯、前相の成績、選択除外基準、主要評価項目、スケジュール、併用禁止薬などが記されており、臨床試験はこのプロトコールに則って業務を実施します。プロトコ-ルから大きく外れてしまった対応をした場合には「逸脱」となり報告書を書かなければなりません。
■試験数とは?
いわゆる、医療機関または個人が持っている臨床試験(治験や臨床研究)の数のことをいいます。「A病院では試験数が4つある」といったら、「あぁA病院では4つの臨床試験を同時並行で行っているのね」となります。
■症例数とは?
症例数は2つの意味で使われることが多いです。
・試験全体の症例数:プロトコ-ルで規定されている、この試験で集めたい目標の被験者の数を指します。国内だけで実施する試験であれば数十名集めればよいということもありますが、世界各国で実施する場合は数千名の規模になることもあります。
・施設の症例数:臨床試験で目標としている被験者数のうち、自分の担当施設で目標とする被験者の数をいいます。医師はこれまでの診療経験から「1年の臨床試験なら何例くらい集められるかな」という所感をもとに症例数を決定します。この症例数をもとに予算なども決定されるため、満了が実現可能な数を設定する必要があります。
癌の治験に関しては、他回答(AI)様が参考になるかと思います。
いかがでしたでしょうか?参考になれば幸いです。
- Q
- オンコロジー研修の試験について、どこから何を勉強したらよいか教えてください。
- A
-
オンコロジー領域の経験は無いのですが、周りの経験者の方に聞いてみました。
「オンコロジー領域はがんに係る広範的な知識が求められます。主に、がんの疫学、遺伝情報、ゲノム・エピゲノム、がん細胞の特性、診断、治療、支持療法などでしょう。余裕があれば、行政のがん対策、集学的治療やチーム医療、臨床研究の範囲がベーシックな内容になる」とのことです。
SMOによっては、専用の研修などが設けられていることもあります。また、その指示を受けた上司やチームの経験者へ勉強方法を尋ねるのも決して恥ずかしいことではありません。健闘をお祈りしています。
- Q
- 循環器領域の治験について教えてください。
- A
-
循環器治験経験者です。
循環器の治験は心エコーをはじめ様々な検査を実施します。他の方が仰るとおり、SMO所属の場合は医療行為が出来ないので、専門的な「技術」を活かすことは難しいものの「知識」は検査値の見読や医師とのコミュニケーションにおいて十分に活かすことが出来るかと思います。
また、治験では循環器に限らず安全性を確認するためにエコー検査をはじめとした検査を実施したり、他院で循環器を受診した際に情報提供書を確認する場面もあり、質問者様の知識はチームにおいても重宝されるかと思います。
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